
大規模な災害が起きたとき、多くの人が頭に浮かべるのは「避難所」ではないでしょうか。しかし、想像してみてください。体育館のような広い空間に、プライバシーもなく大勢の人が身を寄せ合い、見知らぬ人々と共同生活を送る日々を。感染症のリスクも高まりますし、小さなお子さんや高齢のご家族がいる場合は、さらに大きなストレスがかかります。
近年、災害に対する考え方は大きく変化しています。「避難所へ行く」ことだけが唯一の選択肢ではないという認識が広まりつつあります。自宅が倒壊や火災の危険がなく安全な場合は、あえて避難所へ行かず、自宅で災害を乗り切る「在宅避難」という選択肢が注目されています。
災害時にまず重要なのは、自分の命は自分で守る「自助」の考え方です。そして、安全な自宅で過ごす「在宅避難」は、まさにこの「自助」の最たるものと言えるでしょう。避難所へ向かう道中に二次災害に巻き込まれるリスクを避けられますし、住み慣れた環境で心身のストレスを軽減できます。また、避難所の混雑緩和にもつながり、本当に避難が必要な方々(自宅が損壊した方、医療的ケアが必要な方など)がスムーズに避難所を利用できるようになります。
在宅避難の最大のメリットは、何といってもプライバシーが守られることです。周囲に気を遣うことなく、自分のペースで過ごせます。また、ペットを飼っているご家庭では、ペットと共に避難できるという点も大きな利点です。避難所ではペット同伴が難しい場合も多く、離ればなれになるストレスから解放されます。
在宅避難を成功させるためには、徹底した備蓄が不可欠です。電気、ガス、水道といったライフラインが寸断されることを想定し、最低でも3日分、できれば1週間分の水と食料、そして生活必需品を準備しておきましょう。特に食料は、火を使わずに食べられるもの、賞味期限が長いものを中心に選ぶのがポイントです。
一度に大量の備蓄品を揃えるのは大変だと感じる方もいるかもしれません。そこでおすすめなのが「ローリングストック」という方法です。これは、普段から少し多めに食品や生活用品を買い置きし、使った分だけ新しく買い足していく備蓄方法です。これなら、備蓄品の賞味期限切れを防げますし、無理なく継続できます。たとえば、レトルト食品や缶詰、乾麺などを少し多めに買い、普段の食事に取り入れながら備蓄を進めていきましょう。
飲料水、非常食、懐中電灯、携帯ラジオといった基本的な備蓄品はもちろんです。しかし、それだけでは足りません。たとえば、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、生理用品、常備薬、そして「カセットコンロ」と「カセットボンベ」も非常に重要です。“カセットボンベ”は意外と盲点ですが、これを備蓄しておけば、温かいものが食べられますし、湯を沸かすこともできます。
災害時、自分たちの「自助」だけでは限界があります。そこで重要になるのが「共助」、つまり地域の人々と助け合うことです。日頃から近所の人と挨拶を交わし、顔見知りになっておくことが、いざという時の「共助」につながります。町内会や自治会が主催する防災訓練には積極的に参加し、地域の避難ルートや危険箇所を確認しておくことも大切です。
「共助」は、単なる物の貸し借りだけではありません。あなたの持っているスキルや知識が、誰かの助けになることもあります。例えば、医療従事者の方なら応急処置の知識、料理が得意な方なら限られた食材での調理方法、DIYが得意な方なら簡単な修繕作業など、あなたの“特技”が地域全体の「共助」の力を底上げします。お互いにできることを持ち寄り、支え合うことで、地域全体で災害を乗り越える力を高めることができるのです。
在宅避難は、これからの災害対策における重要なキーワードです。自宅が安全であれば、避難所へ向かうリスクを避け、住み慣れた環境で心身の負担を減らすことができます。しかし、その成功は、事前の備え、つまり「自助」にかかっています。
私たち一人ひとりが、自分の命、そして大切な家族の命を守るための準備をすることで、地域全体の「共助」の力も高まります。そして、私たち札幌市民共済は、そのような「自助」と「共助」を大切にする地域社会づくりに貢献するため、今後も役立つ情報を提供し続けます。今日からでも始められる小さな一歩が、将来の大きな安心につながります。ぜひ、この機会に、ご自宅の防災対策を見直してみてください。