


令和7年の冬も、北海道らしい厳しい寒さが本格化してきました。
みなさま、冬の備えは万全でしょうか。
ホームセンターの防災コーナーに行くと、非常食や水、カセットコンロなどが山積みにされ、多くの方が手に取っている姿を見かけます。
もちろん、寒冷地である私たちにとって、暖房手段や食料の確保は命に関わる重要な課題です。
しかし、あえて今日は少し言いにくい、でも絶対に避けては通れない「排泄」の話をさせてください。
災害時、食事は数時間、あるいは1日くらいなら我慢できるかもしれません。しかし、トイレを我慢することは誰にもできません。
特にマンションやアパートで一人暮らしをされている方にとって、トイレが使えなくなる状況は、想像以上に精神的・衛生的なダメージが大きいものです。
地震や大雪による停電でブラックアウトが起きたとき、もし水道が止まったり、マンションの給水ポンプが動かなくなったりしたら、あなたの部屋の水洗トイレはただの「白い陶器の器」になってしまいます。
今回は、見落とされがちですが実は一番深刻な「トイレ問題」について、一人暮らしの視点からリアルな理由と対策をお話しします。

防災対策というと、どうしても水や食料の備蓄に意識が向きがちです。
しかし、過去の災害現場で被災された方々が「一番困ったこと」として挙げるのは、実は「トイレ」なのです。
人間は1日に平均して5回から7回、トイレに行きます。もし発災直後から水が止まってしまったら、その瞬間から排泄物の処理問題が発生します。
水洗トイレは、大量の水で汚物を下水道まで押し流す仕組みですが、断水すれば当然流せません。
また、電気が止まればマンションのポンプが停止し、水が来なくなることもあります。
無理にバケツの水で流そうとすると、配管が破損していた場合に下の階へ汚水が漏れ出し、大変な損害賠償問題に発展するリスクさえあるのです。
さらに深刻なのが、衛生環境の悪化です。流せないトイレに排泄物が溜まっていけば、悪臭が部屋中に充満し、雑菌が繁殖して感染症のリスクも高まります。
食事は配給があるかもしれませんが、トイレは自分でなんとかしなければならない場面が非常に多いのです。
「食べるもの」の心配をする前に、「出すところ」の確保をしておくこと。これが、令和の防災の新常識といえます。
空腹や喉の渇きにはある程度の耐性があっても、便意や尿意はコントロールできません。
特に緊張状態や寒さの中では、トイレが近くなることもあります。「我慢すればいい」という精神論が通用しないのが排泄です。
準備がなければ、ポリ袋や新聞紙で代用することになりますが、その処理の不快感や惨めさは、被災後の心の回復にも大きな影を落とします。

「いざとなったら避難所のトイレを使えばいい」と思っていませんか。実は、一人暮らしの方こそ、自宅に簡易トイレを備えておくべき理由があります。
まず、災害時の避難所のトイレはすぐに汚物で溢れかえり、劣悪な環境になることが少なくありません。
長蛇の列に並び、汚れたトイレを使うストレスは計り知れず、それを避けるために水分摂取を控えてしまい、脱水症状やエコノミークラス症候群になってしまうケースが後を絶ちません。
特に冬の北海道では、吹雪の中、夜中に屋外の仮設トイレに行くこと自体が命がけになることもあります。
また、最近の防災トレンドは「在宅避難」です。建物自体が無事であれば、プライバシーの守れる自宅で過ごすことが推奨されています。
一人暮らしの部屋で在宅避難をする際、トイレが機能していなければ、そこでの生活は数時間で破綻してしまいます。
ワンルームなど限られた空間では、トイレの臭いが生活スペースに直結してしまうため、逃げ場がなくなってしまうのです。
誰にも気兼ねなく、衛生的で安心できるトイレ環境を自室に確保しておくことは、自分自身の尊厳を守ることにもつながります。
集合住宅の場合、トイレ問題は近隣トラブルの火種にもなりかねません。
ベランダに汚物を置けば臭いが漏れますし、共有部のトイレが使えなくなれば住人同士の摩擦も生まれます。
「自分は大丈夫」と準備を怠ることは、結果的に周囲への迷惑にもつながってしまう可能性があります。
お互いに気持ちよく助け合うためにも、最低限の「自分の始末」ができる準備をしておくことが、大人のマナーとも言えるでしょう。

では、具体的にどのような準備をすればよいのでしょうか。
絶対に用意していただきたいのが、既存の便器に袋を被せて使う「凝固剤入りの簡易トイレセット」です。
100円ショップなどで売っている携帯トイレ(小用)だけでは不十分です。大便もしっかり固め、臭いを閉じ込めることができる製品を選びましょう。
備蓄数の目安は、「1日5回 〜 7回 × 最低3日分(できれば7日分)」です。一人暮らしの方なら、最低でも20回分、安心を得るなら50回分程度のセットを用意することをおすすめします。
最近の製品は非常にコンパクトな箱に入っており、トイレットペーパーのストックと一緒にトイレの棚に置いておけるサイズのものも多いです。
簡易トイレを選ぶ際、凝固剤の性能はもちろんですが、最も重要なのが「防臭袋(防臭機能のある袋)」がついているかどうかです。
単なる黒いポリ袋では、時間の経過とともに強烈な臭いが漏れ出してきます。医療用レベルの防臭素材を使った袋(BOSなど)がセットになっているものか、別途防臭袋を購入してセットにしておくことを強く推奨します。
ゴミ収集が再開されるまで、その汚物を部屋の中に保管しなければならないことを想像してください。「臭わない」ことは、被災生活の質を劇的に左右します。
また、使用期限も確認し、10年〜15年保存できる長期保存タイプを選べば、一度買えばしばらく安心です。

トイレの備えは、決して恥ずかしいことではありません。それは、あなた自身の健康と心を守り、ひいては地域全体の衛生環境を守ることにつながる立派な防災活動です。
「簡易トイレ」をひとつ備蓄しておくだけで、災害時の不安の一つを確実に取り除くことができます。
想像してみてください。外は吹雪、電気も水道も止まっている中で、それでも自宅のトイレが安心して使えるという状況を。
その安心感は、何物にも代えがたいものです。
私たちさっぽろ市民共済は、万が一の時の経済的な備えを提供していますが、お金だけでは解決できない現場の困りごとにも目を向けていただきたいと願っています。
自分を守る準備ができている人は、いざという時に他者を助ける余裕も生まれます。一人ひとりの「トイレの備え」が、災害に強い札幌の街をつくります。
ぜひこの機会に、お部屋の防災グッズを見直してみてください。