
近年、自由な旅のスタイルとして、また災害時の有効な避難手段として「車中泊」が大きな注目を集めています。
プライベートな空間を確保でき、移動も可能なため、特に非常時においては心強い選択肢の一つとなるでしょう。
しかし、その手軽さの裏に、命を脅かす「静かなる脅威」が潜んでいることをご存じでしょうか。それが、「エコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)」です。
「自分は体力があるから大丈夫」「少し窮屈なだけだろう」といった油断が、取り返しのつかない事態を招くことも少なくありません。
この記事では、なぜ車中泊でこの危険な症状が起こるのか、そして、あなたとあなたの大切な人の命を守るための具体的な対策について、防災のプロとして、そして「相互扶助」の精神を大切にする共済組合の立場から、詳しく解説していきます。
エコノミークラス症候群と聞くと、多くの方が飛行機での長距離移動を思い浮かべるかもしれません。
しかし、その本質は「長時間、同じ姿勢で動かないこと」によって、足の静脈に血の塊(血栓)ができてしまうことにあります。
災害時の車中泊は、平時のレジャーとは全く状況が異なります。先行きが見えない不安やストレスから、車の外に出る機会が減り、水分補給も怠りがちになります。
特に、トイレの回数を減らそうと水を飲むのを我慢してしまうのは非常に危険な行為です。体内の水分が不足すると血液はドロドロになり、血栓ができやすい状態に陥ります。
そして、この血栓が血流に乗って肺まで到達し、肺の血管を詰まらせてしまうのが「急性肺血栓塞栓症」です。突然の胸の痛みや呼吸困難に襲われ、最悪の場合、命を落とすことさえあるのです。
車内という限られた空間では、どうしても足を伸ばしたり、自由に寝返りを打ったりすることが困難です。
特にシートを倒しただけの状態では、腰や膝が不自然に曲がり、足の付け根や膝の裏にある太い血管が圧迫されやすくなります。
この圧迫こそが血流を滞らせ、血栓という「静かなる時限爆弾」を作り出す引き金となるのです。症状が出た時には手遅れ、ということもあり得るからこそ、「起きてから対処する」のではなく「起こさせない」ための予防策が何よりも重要になります。
エコノミークラス症候群は、正しい知識と少しの工夫で十分に予防することが可能です。
ここでは、誰でもすぐに実践できる「3つの新常識」をご紹介します。これは、レジャーでの車中泊はもちろん、万が一の避難生活でも必ず役立つ知恵です。
命を守る行動は、決して難しいものではありません。以下の3つのポイントを意識し、習慣づけることが大切です。
トイレが気になっても、水分は我慢せずに摂取しましょう。一度にがぶ飲みするのではなく、1〜2時間おきにコップ一杯程度の水をこまめに飲むのが効果的です。
利尿作用のあるアルコールやカフェインの多い飲み物は避け、水やお茶を選びましょう。
1時間に一度は車から出て軽く歩いたり、屈伸運動をしたりするのが理想です。
それが難しい場合でも、車内に座ったままできる「足首の運動」を徹底しましょう。
かかとを床につけたままつま先を上げ下げしたり、足首をぐるぐると回したりするだけでも、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たし、血流を促進してくれます。
眠る際は、座席を倒すだけでなく、クッションやマット、丸めたタオルなどを活用して、できるだけ体を水平(フルフラット)に保つ工夫をしましょう。
凹凸があると、無意識のうちに体が緊張し、血行不良の原因となります。足を心臓より少し高い位置に保つと、さらに効果的です。
エコノミークラス症候群の対策をさらに万全にするためには、事前の「備え」が欠かせません。ここでは、車に常備しておきたい選りすぐりのグッズをご紹介します。
まず、血行促進に役立つ「着圧ソックス」。医療用のものが理想ですが、市販のものでも効果は期待できます。
次に、水分補給を我慢する原因となるトイレ問題を解決する「携帯トイレ」。そして、体を水平に保つための「エアマットやクッション」です。これらがあるだけで、車中泊の安全性と快適性は格段に向上します。
こうした「モノの備え」と同時に、私たちが何よりも大切にしたいのが「心の備え」、すなわち「相互扶助」の精神です。
災害時、本当に大変な時には、自分一人の力だけでは乗り越えられない困難が必ず訪れます。
そんな時、「お互い様」の気持ちで声をかけ合い、水を分け合い、知恵を出し合う。そうした地域の繋がりこそが、最も強力な防災対策となるのです。
私たち共済組合は、「一人は万人のために、万人は一人のために」という助け合いの理念で成り立っています。
火災や自然災害といった万が一の際に組合員の皆様の生活をお支えする火災共済も、この「相互扶助」の精神を形にしたものです。まずはご自身の命を守る備えを万全にし、そして隣の人と手を取り合う。その両輪があってこそ、私たちは困難を乗り越えることができるのです。
今回は、車中泊に潜むエコノミークラス症候群の危険性と、その具体的な対策について解説しました。
車中泊は、いざという時に私たちを守ってくれる心強い味方です。
しかし、それは正しい知識と備えがあってこそ。この記事が、皆様の防災意識を高め、ご自身と大切な人の命を守る一助となれば幸いです。
そして、日頃から防災について考え、備えを万全にするとともに、地域社会での「助け合い」の輪を広げていくこと。それこそが、どんな災害にも負けない、真に強い社会を築く礎となると私たちは信じています。
手頃な掛金で万が一の火災に備える火災共済のように、賢い備えと助け合いの心で、安心な毎日を築いていきましょう。